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オーディブルで読了。芥川賞受賞作とのことで読んでみた作品。ひとつの身体を生きる一卵性結合児の姉妹の話です。著者が現役医師ということもあってかなり専門的に書かれていました。

※以下ネタバレ注意

特に印象に残ったのは意識の話です。
自分の体は他人のものでは決してないが、同じくらい自分のものでもない。思考も記憶も感情もそうだ。そんな当然のことが、単生児たちには自分の身体でもって体験できないから、わからない。単生児だけでなく、生まれると同時に離れる非結合双生児もそうだろう。とにかく、自分だけのものとして使いこむことによって、彼らの意識は脳だったり、心臓だったり、一つの臓器とむすびついてしまうようだ。
哲学的で難しい内容ですよね。

ヤージュニャヴァルキヤ曰く、
我は把握することができない。
釈迦曰く、
あらゆる存在は因縁によって生じ、実体は持たない。
スピノザ曰く、
我々は名詞ではなく、いわば副詞のような存在である。
私が知ってるだけでも色んな哲人が同じようなことを言っていて、なんというか、答えのない問いなんだと思います。

でも自分が自分のものではないといわれて、それをすんなり受け容れるのは難しいですよね。

この本の言葉を借りていうなら、単生児である私は思考も記憶も感情も自分の中にあって、それこそが自分だという潜在意識があるからだと思います。

ただ私なりに色々考え続けて1番しっくりきたのが、
意識が肉体の一部品である脳を使い思考したり、感情や情報を伝達したりしてこの世で生活してゆくという、その意識が脳を使用している状態が心なのである。
というさくらももこさんの解釈です。



この世は流動的で個が実体を持たないとしても、今、何かを感じて生きている状態自体は「私」であっていいんじゃないかなあと。

だからそ今の状態にしっかり耳を傾けながら生きていくことが大切なんだと思いました。

ひとつの身体を生きる一卵性双生児という稀覯な設定を通して、自我の存在やその境界線について考えずにはいられない一冊でした。