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オーディブルで読了。朝井リョウさんの作品は2冊目。前に『正欲』という作品を読んで、気になっていた作家さんです。

※以下ネタバレ注意

1番印象に残ったのは、終盤の雪子の言葉です。
10分間の休憩もホットミルクも、あの時の私にはいらなかった。だけどだからといって、いらないと切り捨てるだけのことをしない想像力が、相手が大切にしているものを自分の中の正しさで排除しないだけの想像力が、今の私には身についている。
自分と違う価値観を受け容れる姿勢は、やはり大切だと思います。人間は完全に分かり合えないからこそ、お互いに歩み寄りながら今日まで文明を発展させてきました。

前に読んだ『チ。』という作品に
とどのつまり、人の生まれる意味は、その企てに、その試行錯誤に、善への鈍く果てしないにじり寄りに、参加することだと思う。
という台詞があったのですが、正にその通りだなあと思います。

このにじり寄りを排除して、自分の価値観を押し付けようとする薫には、正直うんざりしてしまいました。主張自体には共感できる部分もあるのですが、それを信じて疑わない態度には疑問を感じます。

事実というものは存在しない。存在するのは解釈だけである。
というニーチェの言葉がありますが、薫の価値観も一種の解釈であって事実、ましては正解ではないんですよね。様々な解釈を認め合うことで生まれる感動や発展を、自ら手放してしまうのは勿体無いなあと感じました。

まあこの感想も、一種の解釈でしかないのですが…

何はともあれ、他者との関わり方を深く考えさせられた一冊でした。